手紙【つるきよ】【 #つるきよ版深夜の60分一本勝負】

つるきよ版深夜の60分一本勝負
#つるきよ版深夜の60分一本勝負
お題:夏の過ごし方

#つるきよ版深夜の60分一本勝負

拝啓 君へ

突然の手紙で驚いたかい?
驚いてくれたのなら重畳。
…いや、君は怒っているだろうか。
きっと怒ったのだろうな。
何せ何も言わず突然に居なくなったのだから。
きっと多大な迷惑や心配を掛けたろうと思う。
それについては、本当に申し訳なく思っている。
けれど、こうも思う。
それでもきっと君は許してくれるのだろうと。
そう思ったからこうして筆をとった。

 

何が許してくれるのだろう、だ!
加州清光は自分に届いた手紙を引き裂かんばかりにぎりぎりと握りしめた。
手紙を届けに来た審神者がはらはらとした顔でこちらを見ていたが、それを気遣う余裕もなかった。
突然鶴丸国永が出奔してから、本丸は上へ下へ、蜂の巣をつついたような騒ぎだった。
まったく青天の霹靂だった。
誰もそんなことは予想してもいなかった。
それ以上に、理解ができなかった。
鶴丸国永は戦うことが好きだった。
戦場に立つ彼はそれはそれは楽しそうで、清光は時々凄絶な顔をしている彼を、五虎退なんかの視界から遮ったりしたものだ。
そりゃあ清光だって戦うのは好きだが、彼は一種戦闘狂(バーサーカー)のような狂気を見せることがあった。
そんな彼が戦に出られるこの環境を捨てて出奔するなど考えられないことだった。 …そして、鶴丸と清光は佳い仲だった。
その清光にも一言もなく、それどころか出奔を匂わせることすらなく、鶴丸は姿を消した。
当初清光は酷く落ち込んだ。
もしかしたら鶴丸からのサインを何か見落としたのでは、ひょっとすれば自分のせいで鶴丸はいなくなったのでは。
そんな風に考えて、考えて、考えているうちに悲しみは、落胆は、怒りへと変わった。
清光はそこそこ人を見る目がある方だ、と自負している。
初期刀でもあり、一番最初から本丸を、顕現する仲間たちを見てきた。
肉体を得て戸惑ったり、心に振り回されて疲弊した仲間を一番に見つけて助けてきたのだ。
その清光が傍にいて何も気づかなかったのならば、それは鶴丸が、例え何かしらの訴えをしていたとして、誰にも伝わらないようなやり方をした彼のせいだ。
そう思えば、彼の身勝手さに怒りが湧いた。

敵に寝返ったのでは。
それは、誰が言ったのだったか。
最初の混乱が落ち着いた後に、鶴丸と親しいいく振りかの刀と審神者を交えて話し合いをした時だった。
それを聞くまで、清光はその可能性を思い浮かべてすらいなかった。
その発言をした刀も自分で口に出しながら、懐疑的というか、狐につままれているような様子だった。
俄かに空気がけば立ったが、それは審神者に否定された。
審神者は離れていたとしても自分が顕現した刀の気配は分かるのだそうだ。
それこそ審神者との縁を切り、新しい審神者と縁を結びでもしない限り。
つまり少なくとも現時点で鶴丸が歴史修正主義者の審神者と縁を結んだということはないそうだ。
序にだいたいの雰囲気というか、危険にさらされているかどうかぐらいの事は分かるらしいが、それもないそうだ。
気が済んだら戻ってくるんじゃない、と一番の被害者であるはずの審神者がのんきにいうので、清光は怒りの矛先を失ってしまった。

結局そのままうやむやになった怒りが、今手紙を読んでよみがえってきた。
怒りに打ち震えながら、それでも途中で投げ出す気にはなれず、読み進める。
言い訳ができるものならしてみろ、とそんな心境だ。
ところが、言い訳めいたことや心のうちを明かすような記述は一切なく、ただただ「海が青くきらめいて美しい」だとか「西瓜が甘くて美味しいが君はもう食べただろうか」だとか「打ち上げ花火は間近で見ると随分音が大きいんだな。驚きだ」だとか旅行にでも行っている感想のようなことが書き連ねてあるばかりだ。
けれどそれで清光にはわかってしまった。
本当のところなんてわからないが、鶴丸は清光にあれこれ教えることを楽しんでいたように思う。
清光は比較的若い刀だし、長く世にあった刀でもない。
知らないことの方が多くて、長く世にある鶴丸の話はみんな面白かった。
きっと鶴丸は、本丸の中で教えられる事だけでは足りなくなってしまったのだろう。
清光に届いた手紙には小さな貝殻が添えられていた。
随分傲慢な考えかもしれないが、清光は、鶴丸が自分のために出奔して、遠くから自分の見たものを届けてくれているのだと思えてしまった。
そうすれば確かに手紙に書かれていた通り、清光は鶴丸の事を許してしまったのだった。

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