危なっかしい【鶴清】【#加州清光受け版深夜の真剣60分一本勝負】

2017/11/23
#加州清光受け版深夜の真剣60分一本勝負
お題:「お酒」「煙草・煙管」
より、「お酒」

危なっかしい【鶴清】【#加州清光受け版深夜の真剣60分一本勝負】

ふと気がつくといなくなっている。
4度目に気がついたとき、加州清光は酒宴からふらりといなくなった鶴丸国永を探しに出た。
捜索というほどの事もなく、鶴丸は宴席のすぐ外の縁側で一人盃を傾けていた。

「鶴丸」
「加州か」
「こんなところで一人でどうしたの。お酌してあげよっか」
「いや何、見事な月だと思ってなあ」
鶴丸につられて空を見上げると、空気が澄んでいるのか、確かに月が煌々と輝いていた。

君に酌をしてもらえたら酒の旨さもひとしおだな。
そう言って相好を崩した鶴丸に清光は密かに胸をなでおろす。
「それじゃ、失礼しまーす」
いそいそと鶴丸の隣に座り込んで、早速銚子をとる。

「君は飲まないのか」
ちょうど空になった鶴丸の盃に酒を注ぐと、問われた。
「んー、俺は今日はもういいかな。安定潰れてたし」
不思議なもので、清光と大和守安定はどちらかが潰れればどちらかは酔わない。
今日の清光は飲んだところで酔わないので、そう飲む気にはなれなかった。
鶴丸もその事を知っていたようで、なるほどなぁと納得している。

庭に目を向け再び盃を傾ける鶴丸をこっそりと窺う。
清光は鶴丸が好きだった。いくらでも見ていたいと思う。
けれど、秘めていたはずのその想いはあまり隠せてはいなかったようで、他の刀達から指摘されるに至り、
清光はあまり鶴丸のことを見つめすぎないように気をつけていた。
他の刀たちに指摘されるぐらいなのだから、当人で観察眼も鋭い鶴丸にはきっと知られているのだろうと思う。
それでも鶴丸は清光に対する態度を変えることはなかったし、変わらず優しかった。
それに甘えている自覚を持っているから、清光は鶴丸と二人になると緊張した。
どこまでなら許されるのか、どこまでなら嫌悪されないのか。
境目はいまいちわかっていない。
それでも少しでも側にいる時間がほしいと思ってしまう。
だから酒宴からいなくなった鶴丸を探しに来たのだった。

「そういえばさ、なんで鶴丸はわざわざ一人で飲んでるの。もしかしていつもそうだった?」
そういえば、鶴丸は驚いたように少し目を丸くして「気づいていたのか」と言う。
清光はしくじったかな、と思った。
これではいつも鶴丸を見てました。と宣言しているようなものだ。
「…何回か、いなくなってるなー、と思ってたんだよね」
言葉を慎重に選んで口に出す。
そう言えば鶴丸はあまり気にしていなかったのか、ふうんと軽く相槌を打つだけだった。

「なに、大したことではないんだがな。」
鶴丸は昔馴染みが多い。
性格も気安く、あちらにこちらにと、普段から多くの者達の間を行き来していた。
ただ時折、どうしても一人になりたくなる時があるのだと言う。
「別に煩わしいというわけでもない。だがこうして時たま一人で酒を飲みたくなるのさ」

「そうなんだ。じゃあ、俺、お邪魔だった?」
不安を滲ませすぎないように気をつけて問えば、鶴丸はまた笑った。
「そんなことはないさ。君さえ良ければこのまま酌をしてくれると嬉しい」
そう言って空になった盃を寄せてくるので、またお酒を注ぐ。
鶴丸から向けられる優しさに、許されることに心をくすぐられる。
酔っているわけでもないのに、ふわふわと幸せな気分だった。

そんな気分のまま、気がつけば結構な速度で飲ませてしまっていたらしい。
それまで他愛もない話をしていた鶴丸が黙った。
「鶴丸?」
呼んでも返事がない。
肩に手をかけようかとした時、鶴丸の体が清光の方に傾いてきた。
「えっ、鶴丸?!」
慌ててその体を受け止める。
どうにか受け止めて顔を覗き込むと、
「…寝てる」
鶴丸は静かに寝息を立てていた。
よほど深く眠っているのか、多少揺らしても起きない。
「もしかして、疲れてたのかな…」
あの人好きの鶴丸が、一人でいたいと思うほどだ。
そんな事に考えも至らず、浮かれていた自分をぶん殴りたい気分だった。
ただでさえ疲れていたのに、更に負担をかけてしまったかもしれない。

「あれ、加州くん?」
清光が顔を青くしていると、つまみを載せた皿を持った燭台切光忠が声をかけてきた。
「しょくだいきり」
下手に声を出したら涙まで出てきそうで、必死に堪えたのに出たのは随分かすれた情けない声だった。
「鶴さん、寝ちゃったの?」
燭台切は清光の様子には触れず、優しい声で続けた。
こういう当たり前に人を気遣えるところは見習いたいと常々思っている。
特に今は羨ましいと強く思った。
涙が滲みそうで、ただこくりと頷く。
「そっかあ。加州くんといて鶴さんも安心したんだね」
「え、」
言われたことが意外で思わず顔をあげる。
「だって、気を許せる相手じゃないとそんなふうに無防備になれないでしょう?」
特に鶴さんは意外とプライド高いから。
そんなふうに言われると現金なもので、また気分が浮上する。

清光の顔が明るくなったのを見て、燭台切も安心したように笑って続ける。
「それじゃあ僕が鶴さんを運ぶから、布団の用意をしてもらってもいいかな」
「うん。まかせて」
そう言って清光は鶴丸の部屋に向かった。

「鶴さん、起きてるでしょ」
「…今起きたんだ」
「あんまり加州くんを追い詰めないでよ」
「そんなつもりもないんだがなあ」
少しずつ距離を縮めたいと思っているのだが、なかなか上手く行かないと曰う。
意外と不器用な鶴丸を知っているのは、ごく少数だろう。
燭台切はこっそりため息をつく。
あまり手出しをしないほうが良いというのもわかっている。
それでも傍から見ていればもどかしいし危なっかしく、つい気を回してしまう。

願わくば、この二人に幸いの未来が訪れますように。
そう願うくらいしか今はできないのだった。

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